2012年3月(社内回覧書類より抜粋)

 3月11日、東日本の大地震とそれによる大津波が発生してからちょうど一年が経ちました。一年前に起きた悲劇を顧みながら、自分自身はこの1年間は何をしていたのだろうかと、しっかりと考えてみました。
15,854名の方が亡くなり、3,203名の方が未だに行方不明です。負傷者は27,000人にものぼり、多くの方がまだ仮設住宅で生活していらっしゃいます。被害額も16~25兆円にものぼるそうです。突然、自分自身の家族、仲間、さらに生活していた環境が一瞬にして崩壊したとき、人はどうなるのでしょう。私には想像もできません。被災に遭われた方々の少しでも早い復興を願うとともに、変わらず生活している自分自身に幸せと感謝を感じ、常に前向きに生きていくべきだと思いました。
 先日、南砺市で橋本五郎(読売新聞特別編集委員)氏の講演会を聞くことができました。
橋本氏は、秋田県の北部の人口5,000人程度の町に生まれ育ち、慶応大学を出た後、読売新聞に入社して記者生活を送り、近年では「ズームイン!!SUPER」に出演もされていた人物です。
講演の中で、15年前に81歳で亡くなられたお母さんの話がありました。橋本氏は「五郎」の名前の通り、6人兄弟の5人目でした。学校の先生をしていたお父さんは早くに亡くなり、その後は保険の外交員をしているお母さんの収入だけで家族全員が暮らしていたそうです。(いわゆるシングルマザー)
橋本氏は就職しても実家に帰るのは年に2回、盆と正月だけ、お母さんに小遣いを渡そうとしたら受け取らないので、橋本氏の奥さんがそっと仏壇の奥に封筒に入れて置いてきていたそうです。お母さんの死後、預金通帳等を見ていたら、ボーナスの時に送った分と合わせ、一銭も手を付けずに貯金してあったとの事、私は目を潤ませながら講演を拝聴いたしました。
いろんな環境の中、頑張っている人もいる半面、子が親を殺め、親が子を殺める、そんな事件も報道されています。先日、大阪で二人の子供を餓死させた母親もしかりです。震災の時、悲惨な状況に涙しながら頑張っている被災地の人たちとの絆を考え、同じ国、同じ人間がどうして、と複雑な心境で講演を聞き、考えさせられる内容でもありました。
 また、そんなお母さんが、就職した橋本氏に贈った言葉を教えて頂きました。
第1は、「何事にも手を抜くことなく、全力であたれ。」
第2は、「仕事に慣れてくると、生意気になってくる。傲慢になってはいけない。」
第3は、「どんな人でも嫌いになることはない。その人に自分より優れているところを見つければ、嫌いにならないものだ。」
の3つだったそうです。
そして、橋本氏は、今でもそのお母さんの教えに背いていないかを絶えず自問自答しているそうです。
自分自身に当てはめ、「常に謙虚で、全力を出しているか」常に問いかける必要性を感じました。
『性善説』と『性悪説』という2つの言葉があります。調べてみると、『性善説』とは、「人間は善を行うべき道徳的本性を先天的に具有しており、 悪の行為はその本性を汚損・隠蔽することから起こるとする説。正統的儒学の人間観。孟子の首唱。」、『性悪説』とは「人間の本性を利己的欲望とみて、善の行為は後天的習得によってのみ可能とする説。孟子の性善説に対立して荀子が首唱。」とのことです。要するに『性善説』とは「人は生まれながらにして善なる生物であり、いろんな経験をして悪を覚える」そして『性悪説』とは「人は生まれながらにして悪なる生き物であるが、いろんな経験をして成長して正しいことを学ぶ」とのことです。
人は誰しも生まれた時は、純朴で悪しき考え方なぞ全くない生物であると思います。それが、いつの間にか騙されたり、裏切られたり、はたまた悪しき考えを植え付けられたりと、経験や、成長とともに物事を純粋に考えられなくなってくるのではないかと思っています。そして、何が善で何が悪かもわからなくなる。
何かと”世知辛い世の中”です。当社を取り巻く環境でも、いろんな情報や、誹謗中傷が飛び交っています。そんな情報や誹謗中傷に踊らされることなく、しっかりとした考えのもと、あくまでも愚直に、そして真面目に、善悪を判断し、大義を重んじて行動していきたいと思います。それが、当社の社風であり、それが当社の勝ち残る術だと考えるからです。

2012年3月25日
上田  信和

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