2015年9月(社内回覧書類より抜粋)

夏の暑さから一転して急に涼しさを感じる日々が来たかと思っていたら、

台風の到来と長雨、そしてまた台風、果てには台風の影響と思われる豪雨によって

関東においては一級河川の「鬼怒川」の氾濫が発生しました。

鬼怒川の氾濫は多くの被災者と損害を発生させました。

 

被災された方々には少しでも早い復興と災害前の生活に戻っていただきたいと思います。

そして、自分自身が普段と変わらない生活ができる事に感謝をしたいと思います。

 

ただ、自然の驚異を知りながら、その中で生かされていると頭では理解できていても、

何かと異常気象が続いている近年を目の当たりにすると、

被害が出るたびに、やりきれない思いがします。

 

大石久和氏の著書「国土が日本人の謎を解く」にはこのように書かれています。

 

日本は島国です。大陸とは微妙な距離があり、大陸文化は運ばれてきたが、

大量の軍隊や他の民族によって占領や、侵略された経験は無い国です。

よって、日本特有の厳しい自然の中で育まれてきた独特の文化や独自の生活スタイルがあり、

また、日本は木の文化です。

 

気候条件の厳しい日本では、台風や河川の氾濫、更には、

地震大国でもある日本においては石で構造物を作るということが自然の驚異の中では

無意味だということを過去の経験より知っていたからこそ、比較的簡単に、

そして湿潤な気候に合う木の文化が発達してきたと考えられています。

それを著書の中では、「流れていく歴史」を持つ文化と称しているし、

そのような文化を持った国を「天為の国」と言います。

 

そして、同時に「流れていく歴史」の対義語として「積み重なる歴史」を定義しています。

それは、ヨーロッパ等の大陸を中心として栄えてきた文化です。

地震がなく強烈な台風や洪水、河の氾濫などの影響が殆ど無い地域の文化です。

つまりは、それは石の文化であり、人が建てた建物は、人が壊さない限り壊れません。

地震も起きなければ大洪水が押し流す事もほとんど無い地域での文化です。

 

フランスのパリでは、ナポレオンの時代に作られた街区割りや町並みはそのまま残っています。

また、ヨーロッパの諸都市は第二次世界大戦で破壊された部分は、

元の町並みに戻す事が基本とされてきました。

 

このような文明は、人が作り、人が壊さない限りは風化する事はあるが、

朽ちて無くなることはありません。

このような文化を持つ民族は「積み重なる歴史」を持つ民族である。

そのような文化を持った国を「人為の国」とも言います。

 

今回の災害については皮肉にも「流れていく歴史」を象徴するような災害であった気がします。

報道の中で、浸水した地域はもともと田園地帯だったという事や、

自然堤防を壊して太陽光発電の用地を造成したとかいう話も出てきています。

 

狭い国土を有効に、効率的に活用しようとするが為に旧来からの歴史や言い伝えを

無視した事にもよるのかもしれません。

同様な事が、東北の震災において発生した津波の時も言われていました。

昭和8年に高台に建てられた「高き住居は児孫の和楽」と書かれた石碑は、

この高さより下に住んではいけないと語っていました。

それを無視した形で、経済成長と共に宅地化していった結果だとも言われました。

 

自然に抗う事は出来ません。

我々は、その災害を少しでも和らげる対策を土木建設業という業態の中で

しているだけかもしれない。

しかしながら、災害を防ぐ対応をしていかない事には、更に被害を多く大きくします。

我々の持っている役割は非常に重要で、

誇り高い仕事である事には間違い無いと思っています。

 

私自身が住んでいる「砺波」の歴史や文化を紹介した「散居村の記憶」という冊子が刊行されました。

明治時代から昭和にかけての歴史が綴られています。

自分が生まれ育った地域が、ほんの一昔前はどうだったか。

高度経済成長によってどう変わっていったかが分かる貴重な資料です。

今年の東洋経済社の「全国住みよさランキング」で砺波市は全国8位となっています。

災害も少なく、交通インフラの整備が他より進んでいたからだと先輩方に感謝し、

この地域に誇りを持ち、「流れていく歴史」を持つ文化を持った「天為の国」で、より災害の少ない、

より住みよい街づくりに少しでも貢献していきたいと改めて思いました。

 

2015年9月25日

上田 信和

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