2016年11月(社内回覧書類より抜粋)

さすがに11月も末になってくると寒くなってきました。

もう少しで初雪、そのうちに今年の初雪も訪れる時期かと思います。

現業の皆さんには一年で最も辛い時期が始まるのかと思います。

体調にも十分に考慮し、効率的で安全な現場運営に心がけてください。

 

11月8日に福岡市のJR博多駅前の道路が大規模に陥没する事故が起きました。

陥没の原因はともかくとして、

その陥没に対する対応は一技術者として本当に感心させられました。

死傷者ゼロ、一週間後の15日には道路が開通という

奇跡的な復旧を終えることができました。

 

これは、

①工事を即時中止し直ちに博多署に交通規制を要請した現場の判断

②要請からすぐ交通規制した博多署 (5分後に道路が陥没)の判断

③朝の内に避難勧告を出し避難所も設けた福岡市や福岡市長の判断

 

これらの判断がタイムリーに行われ、

指示が忠実に確実に一作業員に至るまで実行されたからではなかったでしょうか。

 

今風の言葉で言う「神対応」とはこのことで、

海外メディアでは、「日本の危機管理力の真髄」を見たと、

奇跡的な対応に驚嘆し、こぞってこのニュースを報じたようです。

 

ネット上では、イギリスでは

「マンチェスターの陥没は復旧まで6カ月もかかった」と紹介され、

「レバノンでは数年かかる」

「モントリオールでは5年以上かかる」など、

世界の人々の驚きの声を届けてくれました。

 

地元の建設業界の対応も素晴らしかったと思います。

テレビを見ていても、色々な作業服の人たちが一生懸命、

昼夜問わず働いている姿に感動を覚えました。

また、復旧の工法やその工法への現場の対応の早さにも目を見張るものがありました。

 

復旧の作業ではまず、土にセメントや固化剤を混ぜた「流動化処理土」と呼ばれる、

流し込むと水中でも固まる特殊な物質を流し続ける作業が続けられました。

「流動化処理土」は固まりやすい性質を持つため、

作り置きはできなので、

復旧工事を担当した建設会社では、

市から依頼があった時に

「緊急事態だ。新しい仕事は受けるな!」

との社内号令が飛んだと言われています。

 

すべての処理土を運ぶには、延べ1千回近く、

ミキサー車で搬入する必要があります。

関係者は、あらゆるところからミキサー車をかき集め、

昼夜問わずピストン輸送したそうです。

 

福岡県では元来、炭鉱が多い土地柄であり、

その跡地では、陥没事故が度々起きていたそうで、

復旧にあたった企業などは事故処理を通じ、

緊急時のノウハウが今回の事故に功をそうしたと思われます。

 

ただ、今回の事故の対応において、

報道番組のコメンテイターがいろんな批判を言っているのを聞きました。

「すぐに埋め戻しをしてもいいのか?」

「現場の検証をしなくてよかったのか?」

「この工法がベストだったのか?」

などというコメントです。

非常に残念で仕方がありませんでした。

 

あまりにも薄っぺらな切り口です。多くの人が努力して、

考えられる知識と技術力と労力・機械を使って、

少しでも早く被害に遭われた方のために、平時の生活、交通網に戻すことが

一番大切なはずなのに…

二次被害もなく無事に開通したら、

この言われ方かと思うと非常に残念でなりませんでした。

 

深さ約15m、縦横約30mの巨大な穴の埋め戻しに要した

「流動化処理土」の量は

ミキサー車1,550台分の約6,200㎥にも及んだといいます。

流動化処理土の使用で、

埋め戻す前に比べて地盤が30倍の強度となりましたが、

コンクリートのように強固ではないため、

今後は陥没事故の原因調査のためのボーリング調査ができる利点もあります。

そんな事実を知ってのコメントだったのでしょうか。

 

マスメディアが簡単に自分の薄っぺらな知識だけで発言しないで欲しい

と思っているのは私だけでは無いはずです。

建設会社に関連する技術者が今回の事故への対応を賞賛することと思います。

 

2016年11月25日

上 田  信 和

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